周期的な運動錯覚が他肢筋への促通効果に及ぼす影響

梅沢侑実、中川剣人、
戚維璜、三浦智、小林洋、
藤江正克、彼末一之、○藤本浩志

【背景と目的】自力での寝返り、座位保持等ができない寝たきりの高齢者は年々増加傾向にある。運動をしなくなると、身体部位のそれぞれの機能のみではなく、それらを適切に協調させる機能も低下する。そこで我々は、実際の運動はない状態でも、運動時と同様の神経活動を起こす新たなリハビリテーション手法を考案するため、筋肉の腱への振動刺激によって生起する運動錯覚現象(Goodwin 1972)と、体のある部分を随意的に動かすと、安静状態の別の部位の筋を支配する神経活動が、動作肢の動作位相に対応した変動を起こす他肢筋への促通効果(Baldissera et al. 2002; Carson 2004)に着目した。本研究では、運動錯覚の惹起による他肢筋への促通効果の有無を確認した。

【実験方法】実験のタスクは、1)随意運動、2)腱振動刺激(80Hz)による運動錯覚、3)受動運動における、何れも周期的な左手の屈伸運動であった。参加者には安静座位で、左手関節の周期的な伸展・屈曲運動のタイミングで参加者の左一次運動野に経頭蓋磁気刺激を与え、右手関節伸展筋、屈曲筋の筋電図上に現れる運動誘発電位(MEP)を記録した。

【結果】実験の結果、錯覚条件時では随意的に動かす条件と同様に、右手筋のMEP振幅値が左手の運動錯覚の動作位相に対応して変動することが確認された。さらに、この変動は錯覚条件時に運動錯覚が生起しなかった被験者では認められなかった。

【結論】以上の結果から、一肢への運動錯覚の惹起により、その動作位相に応じた対側肢の皮質―脊髄路の興奮性の変動をもたらす可能性が示唆された。本研究で得られた知見は、身体機能が低下し、四肢を動かすことが困難な高齢者に対して、四肢間の協調機能を保つための新たなリハビリテーションツールとして役立たせることが期待できる。